あるお客様からの
電話がなくなった日から、
このシステムは始まりました
「車検はもう別のお店でやってもらいました」
車検の案内で電話をかけたお客様から、そう言われたことがあります。
長くお付き合いいただいていた方でした。何度か電話をかけたのですが、つながらない。留守番電話にも残しました。それでも折り返しはなく、しばらくして連絡が取れたときには、もう別の工場で車検を済ませた後でした。
こちらに落ち度があったわけではない、と当時は思いました。でも、後から考えれば違います。お客様が「そろそろ車検だな」と思った、そのタイミングで、うちには連絡する手段がなかった。ただ、それだけのことでした。
電話とFAXと、店頭予約だけだった頃
私が父の創業した自動車整備工場の代表を引き継いだのは、2011年の11月です。
当時の予約受付は、電話、FAX、そして店頭。昔からのやり方をそのまま続けていました。特に不便だとも思っていませんでした。
ですが、数年経つうちに、少しずつ無理が見えてきます。
夜間や定休日にかかってくる問い合わせに、出られない。お客様から「いつ電話しても出ないね」と言われる。こちらから車検の案内を入れても、今度は相手がつかまらない。何度もかけ直し、そのうち時期を逃す。
メールでのやり取りも試しました。ですが、お客様がご希望された日に入庫できるかどうかを、スタッフが台帳を一件ずつ確認して返信する。その手間は、電話とさほど変わりませんでした。
私自身、現場では営業を担当していました。出先でお客様から「来週あたり車検をお願いしたい」と言われても、その場では決められない。事務所に電話をして、空き状況を確認してもらって、折り返す。お客様を目の前にして、待たせることになります。
一つひとつは小さな不便さです。ですが、積み重なると、確実に取りこぼしが出ます。
探しても、うちに合うものが無かった
何か仕組みが必要だ、とは考えていました。実際に予約システムをいくつか調べもしました。
そこで分かったのは、選択肢が両極端だということでした。
整備業に対応した本格的なシステムは、機能は充実しているけれど、うちの規模には過剰で、費用も相応にかかる。一方、安価で手軽な汎用の予約システムは、代車の管理ができない、車検という業務の考え方に合っていない。
小さな整備工場が、無理なく使える。それだけのものが、見つかりませんでした。
だから、自分で作りました
2017年から2018年頃だったと思います。MTS Simple Bookingという、WordPress用のオープンソースの予約システムを見つけました。
これを土台にして、整備工場の業務に合うように作り込んでいきました。代車の管理、車検や点検といった作業区分ごとの受付時間の考え方、繁忙期の枠の調整。実際に自分の工場で毎日使いながら、足りないところを直す。その繰り返しでした。
誰かに売るために作ったものではありません。自分の工場で必要だったから作った、それだけのものでした。
便利にしたつもりが、失敗もしました
導入後、思わぬ声をいただきました。
「最近、連絡くれなくなったね」
長くお付き合いいただいている年配のお客様からでした。それまで電話でご案内していたものを、はがきと予約システムに切り替えたことが原因です。私たちにとっては効率化でしたが、お客様にとっては「関係が薄くなった」と感じる変化でした。
何も言わずに離れていった方も、おそらくいらしたと思います。
このとき学んだのは、ネット予約は電話や紙をやめることではない、ということです。お客様が使いたい入口を、一つ増やすこと。それ以上でも以下でもありません。この考え方は、今も設計の根っこにあります。
小さな整備工場が担っているもの
現在、工場そのものは、縁あって他社に引き継いでいただきました。ただ、その前後で改めて考えたことがあります。
12年間この仕事をしてきて感じるのは、地域の車を実際に支えているのは、こうした小さな工場だということです。
ディーラーは新しい車と自社ブランドを中心に見ています。では、年式の古い車は。他社ブランドの車は。すぐに見てほしいという急な相談は。夜に故障して困っているという電話は。そういうものを、どこが受けているか。
町の整備工場です。少ない人数で、長い付き合いのお客様の車を、一台ずつ見ている工場です。
その工場が、お客様と連絡が取れないという理由だけで仕事を取りこぼしている。私自身がそうでした。おそらく、珍しい話ではないと思います。
技術でも、対応でも、信頼でもなく、最初の接点のところで躓いている。これは、その工場にとっての損失であるだけでなく、地域にとっても惜しいことだと感じています。
だからこそ、この三つを守っています
このシステムを他の工場様にもお使いいただくにあたり、決めていることが三つあります。
一つ、機能は足し算ではなく引き算にする。 使われない機能は、無いのと同じどころか、画面を複雑にするぶん邪魔になります。小さな工場で本当に必要な機能だけに絞ります。
二つ、お客様を置き去りにしない。 ネット予約は、電話や来店をやめるための仕組みではありません。入口を一つ増やすための仕組みです。私の失敗から得た、譲れない考え方です。
三つ、続けられる価格にする。 どれだけ良いシステムでも、費用が重ければ続きません。続かないシステムは、結局なにも変えません。小さな工場が無理なく払える金額であることを、前提にしています。
最後に
私は、システム会社の人間として整備工場を訪ねているつもりはありません。
同じように電話のやり取りに苦労した日を過ごし、同じように台帳を探し、同じようにお客様を取りこぼした経験のある人間として、伺っています。
もし今、予約や連絡のことで思い当たることがあれば、まずはお話を聞かせてください。導入するかどうかは、その後で決めていただければと思います。


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