「お客様から夜8時に留守番電話が入っていて、翌日電話しても今度はお客様が出ない…」
こんな経験はありませんか?日本でのLINE普及率は90%を超え、多くの業界でLINE公式アカウントを活用した顧客サービスが当たり前となっている中、自動車整備工場ではまだまだ電話と来店での対応が中心となっているのが現状です。
しかし実際には、LINE公式アカウントは自動車整備工場にとって非常に相性の良いツールです。今回から4回シリーズで、1人親方から5名程度の小規模な整備工場における、LINE公式アカウント活用の実践方法をご紹介します。

自動車整備業界特有の「3つの課題」
課題1:お客様との接触頻度の圧倒的な少なさ
自動車整備業界には他の業界にはない特殊な事情があります。それはお客様との接触頻度の低さです。多くても半年ごとのオイル交換、場合によっては2年ごとの車検の時にのみお客様と顔を合わせるという状況は、他のサービス業では考えられません。
美容院なら月1回、飲食店なら週1回といった頻度で接点がありますが、整備工場の場合は年に1-2回程度。この長い空白期間が、お客様との関係性を維持する上で大きな障壁となっています。
結果として、車検時期が近づいてもお客様が忘れてしまい、気づいたときには他の工場で車検を受けてしまっている。トラブルが発生した時に「どこに相談すればいいかわからない」となってしまう。長年お付き合いいただいていたお客様でも、いつの間にか疎遠になってしまうことがあります。
課題2:営業時間外の問い合わせ対応の限界
多くの整備工場は平日の日中が中心の営業時間となっており、夜間や休日は無人となります。しかし、お客様が車のトラブルに会うのは、通勤途中や休日のドライブ中であることも多いものです。
従来の対応では、留守番電話にメッセージを残していただき、翌営業日に折り返し連絡を取るという流れでした。しかし、夜間や休日に連絡をくださるお客様は、日中も仕事で忙しく、なかなか電話に出られないことが多いのです。
実際の事例として、月平均15件の留守番電話での問い合わせがあっても、最終的に予約や相談に繋がるのは10件程度。残りの5件は、折り返し連絡を取ろうとしても繋がらず、すでに他社で対処済みで結果的に機会損失となっていました。
課題3:電話では伝えきれない車の状況と作業途中での追加承認の難しさ
電話での相談で最も困るのが、車の状況を正確に把握することです。「いつもと違う音がする」「見たことないマークが表示された」「どこかをぶつけてしまった」といった相談を受けても、言葉だけでは状況を正確に理解することは困難です。
さらに、自動車整備には「実際に作業を始めてみないとわからない問題」が数多く存在します。例えばドラムブレーキは分解してみないと状況が確認できません。車検や定期点検で入庫いただいた車両を点検した結果、交換や修理が必要な部品が発見された場合、お客様に状況を説明し、修理や交換の許可を得る必要があります。
従来は電話で「ブレーキライニングが摩耗していて交換が必要です」と説明しても、お客様には実際の状況が伝わりにくく、「本当に交換が必要なのか?」という疑問を持たれることもありました。結果として、「一度見に来てください」という対応になりがちですが、お客様にとっては時間と手間がかかり、作業も中断してしまいます。

なぜLINE公式アカウントが解決策となるのか
解決のポイント1:常に手元にある安心感
LINE公式アカウントがあれば、お客様のスマートフォンの中に常に「○○自動車」のアイコンが表示されます。何かあった時にはすぐに連絡できる安心感を提供でき、長期間の空白期間があっても関係性を維持できます。
解決のポイント2:24時間いつでも相談可能
お客様は24時間いつでもメッセージを送ることができます。工場側も営業時間内に確認して返信すれば良く、お互いにとって負担の少ないコミュニケーションが可能になります。
解決のポイント3:写真で瞬時に状況把握と透明性のある作業報告
警告灯の写真、損傷箇所の写真、オイルレベルゲージの写真など、一枚の写真があることで状況が瞬時に把握でき、適切なアドバイスや緊急性の判断が可能になります。
さらに重要なのは、作業途中で発見された問題についても、写真付きで状況を報告できることです。ブレーキライニングの摩耗状況やベルトのひび割れなど、実際の部品の状態を写真で送ることで、お客様に納得していただいた上で修理・交換の許可を得ることができます。
これにより、お客様には「なぜその作業が必要なのか」が明確に伝わり、工場側も作業の正当性を証明できるため、双方にとって安心で透明性の高いサービス提供が可能になります。
実際の導入効果:数字で見る変化
実際にLINE公式アカウントを導入した整備工場での変化は劇的でした。
導入前の状況:
- 留守番電話での問い合わせ:月平均10件
- 折り返し連絡の平均試行回数:3.2回
導入後の変化:
- 24時間受付が可能に
- 夜間・休日問い合わせ予約:月平均12件
- お客様からの評価:「夜でも休日でもいつでも相談できて便利」
また、特に印象的だったのは、お客様から「パネルにいつもと違うマークが出ました」という写真付きメッセージをいただいた際の対応です。エンジン警告灯であることがすぐにわかり、「すぐに運転を停止して、レッカーで工場まで運びましょう」という迅速な対応ができました。これが電話での相談だけであれば、状況確認だけで時間がかかり、最悪の場合、エンジンに深刻なダメージを与えてしまう可能性もありました。
それ以外にも、前述のドラムブレーキの件であればブレーキライニングの交換の必要性が出た場合であっても、LINEで摩耗したブレーキライニングの写真を送ることで、お客様にその場で状況を理解していただき、すぐに交換の許可をいただくことができます。お客様からも「写真で見ると確かに危険な状態ですね。お任せします」という返信をいただき、作業を中断することなくスムーズに進めることができました。

LINE活用の全体像:4つのステージ
ステージ1:基本的なコミュニケーション改善
まず最初のステージでは、従来の電話中心の対応から、LINEを使った24時間相談受付体制へと移行します。お客様はいつでも気軽にメッセージを送ることができ、写真を添付することで車の状況を正確に伝えることが可能になります。工場側は営業時間内に確認して迅速に返信することで、お互いにストレスのないコミュニケーションを実現できます。
ステージ2:定期的な関係維持
次のステージでは、長期間にわたる顧客との関係維持に重点を置きます。車検時期が近づいたお客様には段階的にリマインドメッセージを配信し、季節の変わり目にはタイヤ交換やエアコンメンテナンスなどの情報を提供します。また、燃費向上のドライビングテクニックや最新の安全装置に関する豆知識など、お客様にとって価値のある情報を定期的に配信することで、信頼関係を深めていきます。
ステージ3:予約システムとの連携
さらに発展させたステージでは、LINEと予約システムを連携させることで、より便利なサービスを提供します。車検のリマインドメッセージに予約ページのリンクを含めることで、お客様はその場ですぐに予約を取ることができ、24時間いつでも自動で予約を受け付けることが可能になります。予約確認や前日のリマインドなども自動配信されるため、ヒューマンエラーによる連絡漏れも防げます。
ステージ4:データ活用による個別最適化
最終ステージでは、蓄積されたデータを活用してお客様一人ひとりに最適化されたサービスを提供します。お客様ごとの車両情報や過去の整備履歴を管理し、それに基づいた個別の提案を行います。例えば、前回のオイル交換から一定期間経過したお客様には個別にメンテナンスのご案内を送ったり、車種や年式に応じた専門的なアドバイスを提供することで、より深い信頼関係を築くことができます。
導入時の心配事とその現実
「ITが苦手だから…」「お客様が使ってくれるか心配…」「設定が複雑では?」
こうした心配をお持ちの方も多いと思います。しかし実際には、LINE公式アカウントの基本設定は30分程度で完了し、日常的な操作はスマートフォンでメッセージアプリを使える方なら問題なく対応できるレベルです。
また、お客様の反応についても、特に30-50代の働く世代を中心に「電話する時間がないから、LINEで相談できるのは助かる」という声が多く聞かれます。
シニア世代でも家族との連絡用にLINEを活用してる方も非常に多く、新しいコミュニケーション手段としてのLINEは非常に使い勝手のいいものになっています。
投資対効果:月額0円から始められる理由
LINE公式アカウント自体は無料で開設でき、基本的な機能は無料で利用できます。さらに、予約システムとの連携についても、初期費用0円、月額費用0円から始められるサービスを選ぶことで、リスクを最小限に抑えて導入できます。
単純計算ではありますが、夜間・休日の問い合わせから月12件の新規予約を獲得できた場合、1件あたり平均30,000円の車検であれば月間360,000円の売上向上効果があります。初期投資がほぼゼロであることを考えると、非常に高い投資対効果が期待できます。
次回予告:具体的な導入手順を詳しく解説
今回は、なぜ自動車整備工場にLINE公式アカウントが必要なのか、その理由と全体像をお伝えしました。
次回(第2回)では、「LINE公式アカウント開設から初期設定まで完全ガイド」として、実際の設定手順を画面付きで詳しく解説します。スマートフォン1台で30分あれば完了する手順を、ステップバイステップでご紹介予定です。
- LINE公式アカウントの開設方法
- 基本的な自動返信設定
- お友達登録を着実に増やす方法
- 最初の1週間でやるべきこと
- よくある失敗とその対策
まずは今回の内容で、LINE活用の可能性を感じていただければと思います。お客様との継続的なコミュニケーションを通じて信頼関係を深め、地域で最も頼りにされる整備工場を目指してみませんか。